軍人の強盗化と不祥事

北朝鮮の軍人が強盗化していることについて多くの脱北者が証言している。

最近になって、金正日はしきりに「先軍思想」ということばを使い、軍隊重視の姿勢を打ち出している。「先軍思想」とは軍隊を強化し、戦争の準備を急げという金正日の意思の現れでもある。
しかし、金正日の要求とは裏腹に、軍人たちの規律はゆるみ、一部は野獣のような集団とかしつつある。なにしろ、兵士の給与は1・8ウォンにすぎない。その後、上等兵2・5ウォン、下士官3・5ウォン、準士5ウォン、上士9ウォンと上がっていくが、それでも微々たるものにすぎない。
しかも、給与をもらっても外出は一切禁止で、軍人用商店しか利用が許されていないため、欲しい物を買うこともできない。軍人用商店にはろくな商品が並んでいないからだ。私も入隊直後にもらった1・8ウォンの使い道がなく、先輩の兵士にタバコ代に使ってくれと、全額あげてしまったほどだった。
また、食料をはじめ、必需品が満足に供給されないため、軍人たちは民家に押し入って食料や家畜を強奪し、あげくは強姦まで働くという不祥事が頻発している。また、あるものは軍務などそっちのけで、除隊後を見越しても蓄財に余念がない。
たとえば、中朝国境を守る警備隊の軍人たちはさまざまな密輸に手を染めたり、脱北者の国境越えを見逃す見返りにドルを受け取るようになった。中朝国境を行き来する中国の朝鮮族からも通行料として一律300ドルという大金を巻き上げる。
ドルを持たない北朝鮮住民からは仕方ないので、タバコや酒などを要求するといった塩梅である。こうして国境地帯で私服を肥やす将校や兵士たちは含む期間中に「20万ドルは貯めたい」などと、人目をはばかることなく触れ回る始末である。(尹大日『「北」の公安警察』)
中国にいた一年間、私は中国の青年兵士のたくましい姿をたくさん見てきた。私を捕らえた龍井辺防隊の軍人たちも、みな立派な体格をして、顔は紅潮し血色もよく、覇気と活気にあふれていた。
それに比べてあまりにも対照的な朝鮮のわが人民軍の痩せこけた兵士の肉体は、たとえれば軸の折れたしょぼくれた傘のようだ。人民だけでなく、銃を握った軍隊までもが飢えに苦しんでいる。
そのため軍人たちは、手近にいる市民を殴ってポケットの金を奪い、道行く車を停めて強制的にガソリンを抜き、それを売った金で買い食いして空腹を埋める。いまや軍隊は、飢えた虎のように村や街を回り、人民の生命や財産をかたっぱしから強奪する無法な集団になり下がってしまった。(韓元彩『脱北者』)
ドルを持たない北朝鮮住民からは仕方ないので、タバコや酒などを要求するといった塩梅である。こうして国境地帯で私服を肥やす将校や兵士たちは含む期間中に「20万ドルは貯めたい」などと、人目をはばかることなく触れ回る始末である。(韓元彩『脱北者』)
人民軍などの中には、強盗まがいの行為をする者も現れた。特に狙われたのが、闇市の連中や物資を持って列車に乗りこんでいるカツギ屋である。「摘発」と称して闇市の商品を巻き上げて自分のものにしたり、列車に乗りこみ白昼堂々と乗客から食糧や物品、金銭などを奪うようになったのだ。
ついには、銃を突きつけ、無理やり奪う軍人も登場するようになった警察にしても鉄道安全員にしても、人民軍を取り締まる権限がなく、見てみぬふりをするしかない。取り締まることができるのは人民軍の警務部だけだ。(辺 真一『北朝鮮亡命730日ドキュメント』)
一九九〇年の秋、河原の石を掘るために、私たちの村に、朝鮮人民軍の一中隊の兵士がやってきました。以前なら、一般家庭を軍の臨時宿舎として提供するケースが多かったのですが、彼らの行動があまりにも横暴で、獣のように振る舞うので、みんな入り口を閉ざして、彼らとは話すことさえ嫌がるようになりました。
作業班の倉庫の穀物を盗んだり、泊めてもらった家の人が食事の支度をしている間に物を盗んだり、人気のない場所で女性に出会えば、幼老を問わず暴行するなど、ひどい事件が立て続けに起こっていたのです。ある女の子は暴行され、殺されたあげく、畑に埋められてしまったし、杖をついたおばあさんまで辱められたこともあります。
そのとき、おばあさんは「私はこのように年寄りだから勘弁してくれ」と涙ながらに訴えたのに、彼らは「年寄りは女じゃないのか」と言ってむりやり、集団で暴行を加えたそうです。軍人への恐れと怒りは極限に達し、女性たちは道を歩くとき、軍人の姿を見かけるだけで全身の毛を逆立てるほどでした。軍隊のことを「朝鮮人民軍」と正式に呼ぶ人はいない。それどころか、罵って「馬賊団」とか「共匪」と呼ぶほどになっていました。(夫址栄『祖国を棄てた女』)

以下は強盗とはまた別の、軍の不祥事である。

金正日は清津に駐屯する第六軍団の粛清を始めた。ある日の夜遅く、住民はたくさんのトラックと戦車のエンジンの響きを耳にし、鼻をつく排気ガスの匂いをかいだ。
三〇〇〇の全兵士とすべての戦車、トラック、装甲車が町を出ていった。このことについて最も信ぴょう性のある説明は、第六軍団が解体されたのは金正日が同軍団の財政内容をより密に把握したかったから、というものだ。北朝鮮の軍隊というのは、マツタケからスルメ、アンフェタミン、そして体制にとって大きな外貨獲得源である非合法薬品ヘロインなどを輸出するいくつもの商社を経営している。
第六軍団内部の腐敗はエスカレートし、幹部がもうけをかすめて私腹を肥やすうちに、マフィアの世界のようにビッグボスに罰せられた、ということなのだろう。(バーバラ・デミック『密閉国家に生きる』)