軍事訓練

1時間ほどで私たちは、民警の指揮部がある板門郡ペッカダムに到着した。
指揮部は標高1,000メートルほどの進鳳山の裾野に位置している。荒涼として殺風景で、軍隊をまだよく知らない召募生たちをおじけづかせるのに十分だった。
ところどころに訓練場が広がり、後方では見たことのないスローガンの看板があちこちに立てられていた。いずれも「南進統一のために死のう」と激しく訴えるものだった。
それだけではない。夜通し訓練をしているためか、体に鞭打って苦しそうに撃術や銃剣術を訓練する兵士たちのうめき声が、風に乗ってペッカダムの谷間を駆け巡っていた。
撃術は北朝鮮の軍事格闘術だ。日本の空手に似ているが(実際、空手をもとに作られたという噂もあった)、素手で人を殺すために徹底的に磨きをかけている。
特に突きや蹴りなどの技に特徴があり、達人は付きで人間の腹を破り、内臓をえぐり出すことができると言われている。ゲリラ戦を重視する北朝鮮では、ほかのどの国よりも、こうした殺人格闘術の訓練に力を入れていた。(チュ・ソンイル『北朝鮮人民軍 生き地獄の兵営』)
「おら、新兵ども、もっと早く走らんか、声が小さいぞ! 首領さまを称える革命の歌だ。もっと心を込めて大声で唄え!」
炎天下ですでに10キロも歌いながら走らされ、訓練生はフラフラだ。そこへ先頭を走る教官が容赦なく檄を飛ばす。北朝鮮では新兵はシンビョン(新兵)とかシンチャム(新参)と呼ばれる。
当時はこれらの用語は、金日成首領様のパルチザン以来の伝統と聞かされていた。これらが日本語に由来していたとは、韓国に来るまで思いもよらなかった。北朝鮮の軍歌に、日本の軍歌をもとにしたものがあることを知ったのも、韓国に来てからだ。
「日帝は仇敵」と言いながら、人民軍には日本時代の名残があれこれ残っていたのだ。当時私は、北朝鮮のものは何でも我が国独自の「主体的」なもので、世界最高のものと信じていた。
ともかく、新兵は軍歌を張り裂けるような大声で唄いながら、へとへとになるまで走らされる。さらに毎晩学習会で、訓練や日常生活について訓練生が互いに批判し合う総和(総括)が行われる。
そこで、某が訓練中、歌声が小さかったのは、「首領様への忠誠心が不足している証拠」等と言われたら、しこたま殴られるのはもちろん、「反省」のために独房に放り込まれることになりかねない。
それを恐れて、全員がのどを嗄らせて大声を張り上げた。それでも声がかすれて小さくなったものが、伴走しているもう一人の教官に背後から蹴りを食らわされたりした。「忠誠心が足りんのだ、忠誠心が。平壌の首領様に届くくらいの大声で唄え!」(同書)