護衛司令部/護衛総局

金父子の護衛は、護衛司令部(旧護衛総局)と呼ばれる専門の部隊が行なっている。

護衛総局は現在、護衛一局(第一〜第三護衛部)、護衛二局、政府の護衛局、平壌警備司令部、平壌防御司令部で構成されており、護衛総局司令官の下に五名の副司令官が置かれている。五名の副司令官は、護衛一局第一護衛部および政治安全部担当、(政府)護衛局担当、平壌警備司令部担当、平壌防御司令部担当、後方担当のそれぞれの部署に分かれて、護衛事業全般を管掌している。
この中で政治安全部担当服司令官は、護衛総局内の金正日護衛に関する総責任者で、護衛総局長、金正日護衛将校(少将)とともに護衛事業「三人組」として通る。この三人の許可なしでは、如何なる人物も金正日に会うことは出来ない。(清水 惇『北朝鮮軍の全貌』)
護衛一局の第一護衛部は金正日とその家系の護衛を、第二護衛部は当中央委員会と主席宮護衛を、第三護衛部は政府要員護衛を担当する。(金元奉『北朝鮮人民軍の全貌』)
特に金正日護衛を担当する第一護衛部は、金正日用特殊車両と専用飛行機などの警護装備を始め、特殊殺人教育を受けた要員を備えている。これら第一護衛部所属の護衛要員たちは、金正日専用別荘、金日成の生活の家であった「五号宅」、金正日の中央党社内の「八五号官邸」などを護衛する。金正日用理髪師、運転士、飛行士、按摩師、庭園師、美容師なども皆第一護衛部に所属している。護衛総局という巨大組織も事実上は第一護衛部のために存在する。従って第二護衛部以下の他の部署は第一護衛部の命令に絶対服従しなければならない。(同書)
護衛局二局は、金正日の物資管理と政府物資管理を担当する局である。金正日の物資管理は一名「蛾眉山代表部」と呼ばれ、金正日とその家族が食べたり使ったりするすべての物資を調達、供給する部署である。この蛾眉山代表部は、北朝鮮全域に散在する金正日専用物資生産工場であるいわゆる「一号職場」(一部は中央党財政経理部が管掌)を直営し、金正日が必要とする外国製の商品の購入も彼らが受け持っている。のみならず、平壌市大成区域にある主席宮の裏の蛾眉山で、金正日専用の無公害特別農場も管轄しており、金正日が必要とするあらゆる農・畜産物を調達する。蛾眉山代表部という名前もここから出たものである。(同書)
平壌警備司令部は、平壌市の外郭警備を受け持っている。警備司令部では平壌市の外角に約五〇個所の警備哨所を設置、平壌市に出入りする全ての人間と車両を統制する。統制対象者には平壌市に居住する者以外の全ての地方住民、軍人、社会安全員、公務員、地方党員と車両貨物が該当する。警備哨所は社会安全部と共同で使用する。(同書)
平壌防御司令部は護衛局と警備司令部が実施する警備、護衛を武力支援する部隊である。従って護衛活動は、金正日とその家系の護衛と彼らに対する物資の供給、金正日専用施設の警備、党幹部の護衛、平壌の警備と防御ということになる。(金元奉『北朝鮮人民軍の全貌』p.105)
北朝鮮の護衛組織がこれほど巨大になったのは六〇年代後半、金日成唯一思想体制が登場してからである。延安派、ソ連派、甲山派などの各種の反金日成分子らの挑戦を受けた金日成が、それらを粛清すると共に、一人独裁体制を構築するために護衛活動を強化する必要があったからである。そして護衛の概念を平壌という大きな範囲まで広げ、既存の労働党傘下の護衛局に平壌警備司令部、平壌防御司令部まで合わせて護衛総局に発展させたものである。そして人民軍や国家保衛部・社会安全部の反乱を制圧できるように護衛総局に集団軍クラスの武力を配置してあるのである。この逆も同じである。金日成(金正日)がこのように、武力を三角体制に分散させてあるのも、自身の身辺安全を守るためである。(同書)

護衛司令部/護衛総局の選抜は以下の通り。

護衛司令部は、一九九九年頃まで護衛総局と呼ばれていた。護衛司令部要員の選抜は、労働党組織指導部幹部第五課が行う。護衛司令部要員は、直接護衛要員はもとより補助的任務を担当する要員以外にも、単純な市内巡回や賄いや管理要員に至るまで高等中学を卒業し、なおかつ出身階層が良く忠誠心の強い者が選抜されている。(清水、前掲書)
金正日が公式活動を行う場合、金正日に密着して警護を行うのは、護衛司令部要員ではなく労働党中央員会護衛司令部第六処の要員が行う。金正日を至近距離から直接護衛する要員は、経験二十五~三十年の大佐以上が担当する。護衛司令部は反体制・反政府活動、クーデターを阻止する部隊(軍団規模)であり、金正日の身辺警護は全面的に護衛部第六処。ひとたび金正日が動けば基本的に第五線(五重)、状況によっては第七線(七重)の警護が行われる。ただし、護衛部第六処が担当するのは第二線(状況によっては第三線)までで、それ以外は国家安全保衛部および人民保安省が担当する。(同書)
護衛部員らは一年に一回、全国の高等中学校四学年の学生から中央党第五課によって直接選抜される。選抜にあたっては身体条件と出身階層、知能などを重点的に調査する。
特に出身階層は十一親等まで調査し、家族の中に高級幹部がいない平凡な子弟から選ばれる。これは、金正日に命を捧げて忠誠を誓わせるためである。(同書)

以下では「総護衛局」とよばれているが、金正日を直接護衛することから護衛一局第一護衛部であることがわかる。

ある日の夜12時過ぎ、突然「暴風(非常事態)」警報が鳴った。訓練だろうと思った矢先、突然、重武装をした兵士が私たちを取り囲んだ。私たちは瞬時に何事が起きたのか悟った。いよいよ行事が始まるのだ。重武装の兵士たちは金正日の護衛を専門に担当する総護衛局の要員だった。北朝鮮で最高の権力のを持つ、いわゆる金正日の親衛隊で、総勢六○○名の厳選された精鋭である。
一騎当千の連中で、特に守りに長け、世界最強を持って鳴る北朝鮮の陸軍特殊部隊の襲撃も退ける。攻撃力も一流で、鉄壁の守りを誇る平壌の三号庁舎(労働党の謀略機関の本部)にもやすやすと侵入する。特殊部隊のなかの特殊部隊。(チュ・ソンイル『北朝鮮人民軍 生き地獄の兵営』)