兵役・徴兵

北朝鮮では憲法で兵役が義務付けられている。

北朝鮮は憲法第八六条で兵役の義務を定めており、一九五八年の内閣決定において、兵役期間は地上軍で三年六か月、海・空軍で四年と規定されているが、実際には五~八年服務することになっていた。さらに、金正日の指示で九三年四月からは満一○年服務して除隊が可能になった。(石坂浩一『北朝鮮を知るための51章』)

兵役の期間は配属によって違いがあるようである。

兵士の服務年数は、三年六か月~四年と規定されているが、実際には、地上軍で七~十年間、海空軍で六~八年間、技術兵下で八~九年間、軽歩兵などの特殊部隊では十一~十二年間である。このように長期間にわたり服務させるのは、百万人を超える現役兵力を維持するためである。ただ、二○○三年三月に制定された軍事服務法により、男性が十三年間から十年間に、女性は十年間から七年間に、それぞれ三年短縮された。(清水惇『北朝鮮軍の全貌』)

特権階級であったり、コネがあったりすれば兵役期間を短縮することもできる

私の父は、十代で軍に入隊した。中上流の北朝鮮の男性のほとんどがそうであるように、父も十年間の兵役につくことになったが、コネがあれば二年に短縮できた。軍歴がなければ、いい仕事にはつくことができない(パク・ヨンミ『生きるための選択』)

兵役に就くのは、満十一歳から満十六歳まで就学する高等中学校卒業時である。

高等中学校卒業時に、とりわけ軍「招募」のさいに青年たちの将来がほぼ確定する。特権層の連中は子供が軍務に行く年ごろになると、大学に進学させたり、職権を乱用し国家の資金で外国留学をさせている。軍に入れる場合も、軍務の楽な部隊、または一年ほど服務させては引き抜き留学させている。
身体障碍者でない青年が、軍に入隊できないとひどく苦しむことになる。成分が悪くて軍に「招募」されない場合は、社会的に認めてもらえない不確実な存在として一生涯労働に明け暮れなくてはならない。(尹大日『北朝鮮・国家安全保衛部』)

選抜基準に関しては以下の通り出身成分が重要である。

軍「招募」の選抜基準もさまざまである。第一の基準は、出身成分が良く身体壮健な対象からまず飛行士を選び、第二の対象は金正日の身辺警護の護衛局に、第三の対象は海軍といった順序である。成分が悪かったり問題のある家庭の子弟は、全服務期間、坑道工事や建設だけに携わる部隊に勤務しなくてはならない。(同書)
出身成分を八親等まで調べて選抜されたエリートは、たいてい党中央委員会庁舎の案内員として高位級幹部の邸宅の歩哨(警備兵)に立ったり、中央党に直属するサービス部門の案内員として、海外に派遣されたりする。彼らは結婚にあたっても自分の意思で配偶者を選択できず、党が相手を決める。残りの一般兵士は、勤労平民の子女で、彼らは除隊しても家に帰ることができず、建設現場などの職場で、石ころのように日に焼けて働かされる。重労働の炭鉱や鉱山などへ強制配置される場合も多い。(安哲兄弟『秘密カメラが覗いた北朝鮮』)

満十四歳で召募対象者として登録される。

すべての青少年が満十四歳で朝鮮人民軍の召募対象者として登録され、高等中学校を卒業する満十六歳で身体検査を二度受ける。入隊が決まると、軍事動員局の「召募集結所」に集められ、それぞれの師団直属の侵入隊員訓練所に入って軍隊生活を始める。(金起成 (『ボクが捨てた「北朝鮮」生活入門』)
軍が志願者を募り、そこからが合格者を選抜することを北朝鮮では「召募(チョモ)」と言う。そして召募されたばかりの若者は「召募生」と呼ばれた。(チュ・ソンイル『北朝鮮人民軍 生き地獄の兵営』)
幼少期の栄養不良に起因する知能障害のせいで、北朝鮮の兵役対象者のおよそ四分の一が失格になっていると、アメリカの国家情報会議は指摘する。(ブレイン・ハーデン『十四号管理所からの脱出』)

女子の入隊は処女に限られている。北朝鮮の女性は、定期的に処女であるかどうかの検査を受けるという。

身体検査は内科、外科、耳鼻科、眼下の順で進められたが、女の子の場合はもう一つ、産科の検査が加わる。女性の入隊は処女に限られている。が、その身体検査に来た四十名のうち、処女と診断が下されるのは二名だけだった。(『にんじんどろぼう』)

女性の入隊は徴兵ではなく、志願や圧力であることが多い。

朝鮮人民軍は女性の比率が非常に高い。全軍人の約一割を占める。女性は通常、徴兵されずに、志願するよう勧められたり、圧力を受けることが多い。女性たちは教育、昇進、入党のチャンスに引きつけられる。彼女たちは通常、通信士、事務員、医療スタッフとして雇われるが、多くの者は対空砲兵隊に配属されたり、沿岸防衛部隊の任務につく。(アンドレイ・ランコフ『民衆の北朝鮮』)

以下の証言から、ひとクラスのうち、兵役に就くのは十人程度であることが分かる。

高等中学校で二十人いた男子のうち、十二、三人は軍隊に行っただろう。(朝日新聞アエラ編集部『北朝鮮からの亡命者』)
高等中学を出てすぐ軍に入隊した。高等中学は男子校で、クラス約五十人のうち、軍隊に行ったのは二○パーセントだった。(同書)

次のやりとりでは「統一兵士」という単語が登場する。統一兵士とは兵役義務の年限を過ぎた後も軍務につく兵士のことである。

「除隊は遠くないんでしょう?」
「除隊ですか。そうですね、いつ除隊になるかはわかりませんが、統一兵士として残るつもりです」
「統一兵士! 本当に素晴らしい決心ですが、自分の意志でそうするのですか?」(安哲兄弟、前掲書)