列車安全員/常務安全員・列車保安員

北朝鮮の列車には通常の乗務員とは別に、列車安全員/常務安全員と呼ばれる取締官がいる。

列車には、列車乗務員(車掌)だけではなく、不審者や切符と「通行証」を厳重にチェックする「列車安全員」が同乗している。安全員とは、社会安全部の統制のもと、人民の監視を行っている人々である。通常の列車乗務員が軍部と同じカーキ色の制服なのに対し、列車安全員は青い制服で、列車乗車時の混乱を生じさせる行為(無札乗車、行列の無視、飛び乗りなど)の制止などの権限を持つ。
たとえ相手が軍人であっても口答えは許さない。最近では、難癖をつけて、大きな荷物を持った行商人などから金銭を巻き上げる例もあり、また時には理不尽な暴力を振るうこともある。乗客に取って非常に怖い存在である。
さらに大きな捜査権限を持つのが、実弾を込めた銃を携帯する国家安全保衛部直属の「列車保安員」である。27局7万人からなる国家監視機関の国家安全保衛部は、スパイや反体制派の取り締まりを任務とする、いわば秘密警察である。人民監視を日常的に行うため、工場、企業所、大学をはじめ、軍部や政治局など国の中枢機関にも配属されている。
列車保安員の力は強大で、彼らの寝台は無料となり、「特別捜査員証」をかざせば、たとえ走り始めた列車でさえ、停止命令を出して捜査することができる。しかしこれらの権限を悪用し、違法な切符の手配や賄賂をもらって悪事に目を瞑ることも最近ではよく見られるという。
列車内には電灯が取り付けられていないため、夜間には暗闇となることから、盗難事件も多発するのである。(国分隼人『北朝鮮の鉄道事情』)
走り出してしばらくすると、乗客たちの動きが急にあわただしくなり「通行証の検閲だ!」とざわつき始めた。平壌駅近くになると、乗務安全員の通行証検閲が始まるのだ。
前後からいかめしい乗務安全員たちが、乗客に証明書を見せろと懐中電灯をピカピカさせながらやってきて、通行証のない乗客を引っ張り出し、追い立てて、車両の中央に集めた。
男は「ちょっと降りるので、荷物を見ていてほしい」といって窓から飛び降りた。通行証がなくて公民証だけを常務安全員に見せ、「食べるものがなくて食料の買い出しに行くんです。
見逃してください」と哀願する女性がいた。その女性を安全員が足蹴にして前に引きずり出している。乗務安全員は摘発された者たちの青色の公民証の束を握りしめ、通行証の検閲をしながら私の前を通り過ぎた。その後ろには、十名ほどの主婦たちが泣きながら「見逃してください」と哀願し、何人かの男性も荷物を引きずりながら後をついていった。
列車が発射してしばらくたつと、窓から飛び降りていて人たちが乗客をかきわけながら戻ってきて、ふたたび車両の中は満員になった。どうして通行証がないのかと尋ねると、「通行証を入手するには、企業所責任者や安全員に四百から五百ウォンの袖の下を使わなければならない。そうしたら食料の買い出しをしても何も残らない」(安哲兄弟『秘密カメラが覗いた北朝鮮』)