高級車

彼は上手く祖国平和統一委員会書記局長の運転手に賄賂を与えて、自分の車のように乗り回していた。その車はベンツ260であった。乗用車の生産ができない北朝鮮では、自家用車を持つ家はすべて党の幹部の中でも上流層であるので、ベンツやボルボとか、最高級の車に乗って回る。(姜哲煥、安赫『北朝鮮脱出』)
駅のホームに用意されていたリムジンに家族と一緒に乗り込み、そのまま兄の家へ向かった。この車はソ連製の九人乗りで、咸鏡南道に一大しかないものをわざわざ道の主府である咸興市から取り寄せた、と聞かされた。(張明秀『裏切られた楽土』)
黒塗りの車には速度制限がなかった。平壌市内のところどころに立っている交通安全員も、高級官僚が乗っている白いカーテン付きの黒塗りの外車には遠慮する。交通安全員は遠くに黒塗りの高級外車を見かけると、他の車を停止させた。黒塗りの高級外車がノンストップで、時速八十から百キロぐらいの速度で疾走していくのを待って、他の車にゴーサインを出す。
黒塗りのの高級外車以外にも序列があった。最上位の白いカーテン付きのベンツがすべての車に優先した。祖国訪問団の先頭を走っていたベンツはスウェーデン製ボルボなどの外車より優位性を保てたが、白いカーテンの付いている超高級外車と街で出会うと、道を譲らなければならなかった。(金元祚『凍土の共和国』)
平壌郊外に出ると、ほこりにまみれ、汚れた顔の人民学校の子供たちが、祖国訪問団員を乗せたベンツ、ボルボ、観光バスに向かって直立不動の姿勢で少年団式の最敬礼をした。
この最敬礼は、共和国の高級官僚を乗せた権力のシンボルである黒塗りの外車に敬意を表すように訓練された結果である。(同書)