テレビ

北朝鮮のテレビ事情はどうなっているのか。概要としては安哲兄弟の以下の証言が参考になる。

北朝鮮では、テレビの放映時間は、午後三時から夜十時までの七時間程度である。金父子の讃歌で始まり、番組プログラムの案内があり、金父子の賢明な領導の下で我が人民は誇り高い勝利と栄光の道を歩んでおり、我が祖国はこの世にうらやむものもない地上の楽園になっているという内容の記録映画が流れる。
幼稚園児用の子供番組は、金正日の子供時代を伝説化して、それに学ばなければならないと繰り返している。社会文化生活の時間には、家庭料理の番組があり、文化生活の知識が放映される。
それから、金父子の労作をこの世の偉大な傑作であると褒めたたえる社会科学者たちの座談会があり、最後に芸術映画を放映するというものだ。(安哲兄弟『秘密カメラが覗いた北朝鮮』)

北朝鮮のテレビも当然ながらプロパガンダの道具として利用されている。脱北者のパク・ヨンミが次のように説明している。

一つしかない国営のテレビ局で放送されるドキュメンタリーや映画もこうした金一族への崇拝をさらに強める役割を果たしていた。
微笑む金日成や金正日の顔が画面に映し出されると、必ず哀調を帯びた涙を誘うようなBGMが流れた。私もそのたびに感動した。
一度、金正日の夢を見たことがある。金正日は笑顔で私を抱きしめてくれて飴をくれた。目覚めた後もとてもうれしくて、それから長いこと、その夢が一番幸せな記憶だった。
有名な脱北者で、元北朝鮮のプロパガンダ機関の詩人だったチャン・ジンソンは、この現象を“感性独裁”と呼んでいる。
北朝鮮では、政府が人々の行動や教育や職業や発言をコントロールするだけでは足りない。
感性や情緒の面でもコントロールし、個人の主体性を破壊し、自らの体験に基づいて状況に対応する能力を奪うことで、国民を国家の奴隷にしている。洗脳は、子供が言葉を覚えたてのころから始まる(パク・ヨンミ『生きるための選択』)

『十四号管理所からの脱出』では国営テレビで放送されるテーマソングとその歌詞についての記述がある。

「同志の歌」と言うのは、北朝鮮国営テレビ局の人気番組のテーマソングらしいが、その歌詞は苦難と苦悩に耐える旅仲間を歌いあげたものだ。「人生の長い長い道のりを、われらが一緒に歩くとき 我らは鞭うつ雨風にも負けぬ旅仲間 その道のりには幸福もあれば苦難もある われわれは克服する、我々は人生の嵐を耐え忍ぶ」(ブレイン・ハーデン『十四号管理所からの脱出』)

北朝鮮の人々のうち、どのくらいの割合がテレビを所持しているのか。北朝鮮研究者のランコフは次のように説明している。

最も甘い推計によると、同国には約二○○万台のテレビがある。これは北朝鮮の家族の約五割弱がテレビを持っていることを示している。田舎や小都市では二十五パーセントしか家にテレビがない。(アンドレイ・ランコフ『民衆の北朝鮮』)

以下の証言から、北朝鮮のテレビが中国製であること、食糧事情により都市部から農村にテレビが増えていったことがわかる。

食糧事情の逼迫で、トウモロコシ三百~四百キロあれば、「紅梅」「菊花」というような中国製の白黒テレビを買うことができるようになった。平壌や新義州の市民たちは、自分の家のテレビを持ちだして穀物と交換するようになったので、農村地域に急激にテレビが増えた。ところが、電力があまりにも低くて、三百ボルトの家庭用変圧器を付ければ、テレビを見ることができない。(安哲兄弟、前掲書)

北朝鮮が慢性的に電力不足であることについて、詳しくは「電力」の記事を参照。