出版物

北朝鮮のあらゆる出版物では金日成・金正日の文字は太文字で書かれるという。

「ジョンイルボン(正日峰) 正日峰 私たちの誇り 正日峰」ここでは正日峰(金正日同士の生家である白頭山密営の背後にそびえたつ山であり、金正日神格化の一環として一九八五年に命名された)の文字は太字である。金日成や金正日の文字を太字で書くのは、教科書に限ったことではなく、新聞や雑誌などすべての出版物で「金日成・金正日」の文字は太字であり、二人の「お言葉」(教示)なども太字で書く。(宮塚利雄・宮塚寿美子『北朝鮮・驚愕の教科書』)

北朝鮮の出版物は閲覧範囲が定められている。

金日成の著作、とりわけ金正日の著作の多くは、明らかに過激な思想、民族主義的、排外主義的思想を宣伝しており、「南朝鮮同胞の解放」を呼び掛けたものである。こういった主張は一般の書店や図書館に入ってくる無数の出版物にもみられる。その表紙には「国内向け」「党内限定」「軍内部限定」などの文字が見える。(アレクサンドル・ジェービン『私が見た金王朝』)

新聞に関する説明は以下のジェービンの説明が参考になる。

汚れたガラス窓の新聞売り場には看板もなければ売り子もない。一平方メートルにも足りない小屋のまわりにめぐらした狭い棚も空っぽ。これが新聞の売店だとわかるのは、『労働新聞』と『平壌新聞』を数十部売り切るのに必要な二、三十分間だけである。北朝鮮で定期的に街頭で売られる定期刊行物は、この二紙だけ、それも平壌だけである。
北朝鮮は一九八九年の時点で新聞は十六紙、三百万部。雑誌は約六十種(名称)。新聞雑誌は予約購読によって読めるが、購読は金日成の指令によって一世帯一定期刊行物――新聞あるいは雑誌――と制限されており、それも世帯主がほかの家族の成員に権利を譲らぬ限り、世帯主の職業を考慮した購読の権利が与えられる。たとえば、主人が技師で妻が女優であれば、二人とも好みの新聞や雑誌を購読することは許されない。
どちらか一方は図書館に足を運ばねばならない。購読の定期刊行物や郵便物は住所に配達されるが、住所には市、区域、住宅の名称と家族の住所が登録してある人民班グループの番号が記載されている。郵便物はすべて人民班の班長のもとに配達され、班長は各家庭の郵便物はチェックしている。
定期刊行物の発行部数は限定されており、誰もが希望する新聞雑誌を購読できるわけではない。最も人気があるのは、ラジオ・テレビ番組が掲載される唯一の「平壌新聞」だが、部数に制限があり、しかも平壌市民しか購読できない。
労働新聞も平壌の街頭に設けられた壁新聞で読めるが、壁新聞の数も全市に十か所以上はない。市内の鉄道駅と中央郵便局にもあるが、国際情報が載るページはいつも、貼り「忘れる」のがふつうである。平壌以外の都市には新聞の売店も壁新聞すらも見当たらない。外国の定期刊行物は平壌では人民大学習堂とほかの若干の官公庁にしか入っていない。(同書)

以下は60人の脱北者たちの証言を集めた『北朝鮮からの亡命者』からの引用である。平壌出身の国家自然技術科学院技師である魚成日は党の高級幹部しか読めない「参考新聞」なるものがあると証言している。

党の高級幹部らは参考新聞と呼ばれる特別の情報誌がある。平壌の友人がそうした情報誌の一つを持ってきて見せてくれたことがる。そこには、中国の指導者、鄧小平が敬称なしで書かれている。労働新聞ではいつも必ず「同志」と称されていたのに。(朝日新聞アエラ編集部『北朝鮮からの亡命者』)