ラジオ

北朝鮮にとってラジオは重要なプロパガンダの道具である。脱北者のパク・ヨンミが次のように説明している。

ほぼ毎朝、政府支給のラジオから鳴り響く国家でみんな目を覚ました。ラジオは北朝鮮のあらゆる家庭に会って、スイッチを切ることは許されなかった。
チャンネルは常に唯一の国営放送に合わされていて、政府はそうやって家にいる間も国民をコントロールしていた。
朝には『栄える強き国』というような題名の勇壮な曲が次々にかかり、私たちが誇り高き社会主義者として暮らせる幸運を思い出させてくれた」(パク・ヨンミ『生きるための選択』)
共同作業は私たちが革命精神を保ち、国民が一丸になるための手段になっていた。私たちはいつも、どんなことも同時にやらなければならなかった。
だから、正午にラジオが鳴りだすと、みんないっせいに昼食を食べるのをやめる。それから逃れるすべはなかった(同書)

脱北者のカン・ヒョクによれば、ラジオで放送されるのは「平壌放送」であるらしい。

ぼくたちの家には、ほかの家々同様、平壌放送の番組を流すスピーカーが置かれていた。そこから流れてくるのは、敬愛する指導者金正日同志のことを伝えるニュースと、彼に捧げられた、あるいは彼の父親の栄光を讃えてつくられた歌だった。家によっては、スピーカーが痛んでならなくなってしまったところもあったが、僕の家では手入れが行き届いていたのでそんなことはなかった。僕の家にはラジオもあり、やはり平壌放送が聞けた。(カン・ヒョク『北朝鮮の子供たち』)

住民たちが所有するラジオは定期的な抜き打ち検査の対象となっている。

警察は時々、すべての登録された受信機の抜き打ち検査を行う。ラジオの正しい仕様を管理することは、いわゆる人民のグループ、人民班の班長の重要な任務である。
人民班の班長は、どの家にもいつでも(真夜中でも)登録されていない受信機がないかどうか調べるために立ち入ることができる。近年、中国から持ち込まれた自由に同調できるラジオが非常に増えた。そうしたラジオは韓国の放送を聞くために広く使われている。(アンドレイ・ランコフ『民衆の北朝鮮』)

人民班については「人民班とはなにか」の記事を参照。

北朝鮮では各家庭に配られる受信機の他に、街頭スピーカーから放送される有線ラジオもある。

毎朝午前五時。北朝鮮の上では有線ラジオの全国網である「第三放送」が放送を始める。有線ラジオの重要な長所は特定地域だけを対象にする能力があることだ。防空演習の際に北朝鮮の民間防衛システムによって広く使われている。
「第三放送」はいろいろな大衆行事を催す際に重要な役割を演じる。有線ラジオのスピーカーを通じて、特定地区の住民に指令が下される。外国の代表団を歓迎するためにいつ、どこに行くべきか、どんな服装を、何をすべきかの指示が与えられる。
外国の賓客が地元の住民と話をする機会がある場合には北朝鮮の人たちは、その外国人が最もしそうな質問にどのように答えるべきか、はっきりした指示が与えられる。一九八○年代から、新しいアパートでは「有線ラジオ」の差し込みの設置が義務付けられた。スピーカーは家だけでなくオフィスにもある。「有線ラジオ」は多くの場合、公共の場所に設置されている大型のスピーカーに接続されている。
絶え間ない軍隊行進曲、時々ニュースで中断する。
「第三放送」の番組は、音楽、ニュース、教育番組の組み合わせからなっており、すべて宣伝臭が強い。一方、昼間はたくさんの短いニュースと音楽がある。その昔は、音楽は軍隊式の行進曲だけからなっていたが、現在は北朝鮮版のポップスがしばしば流される。夕方、連続「ラジオドラマ」と小説の朗読がある。イデオロギー色が濃いにもかかわらず北朝鮮の人々は「第三放送」が好きである。多くの家では「第三放送」だけが娯楽源である。(同書)