日本

平壌に在住している者には、外国人観光客に質問された場合の想定問答集が配られているという。

「『日本についてどう思うか』と問われ『経済大国で金持ちである』と肯定的に答えた学生は退学処分になった。この場合は『三十六年も我々を苦しめた敵である』と答えなければならない」私たちは、ここに出ている想定問答を一日に十数問ずつ暗記した。チームに党幹部が来て、試験もやった。(朝日新聞アエラ編集部『北朝鮮からの亡命者』)

姜哲煥は収容所での男女の性交渉が厳しく禁じられていることについて、「単に風紀の乱れを恐れてのことではない」とした上で次のように述べている。

金日成・金正日父子が日本人の血を生理的に嫌い、できればこの地上から日本人を絶滅させてしまいたいと口癖のように言っている。(姜哲煥、安赫『北朝鮮脱出』)


五九年に始まった帰国事業によって、日本にいた朝鮮人たちが北朝鮮に「北送」され、帰国していった。しかし、それらの帰国同胞たちはほとんどが強制収容所(北朝鮮では”管理所”と呼ぶ)に収容された。しかし、金父子が「できればこの地上から日本人を絶滅させたいと口癖のおように言っている」というが、姜哲煥はどこからそれを知ったのかは不明。

宮塚親子による『北朝鮮 驚愕の教科書』を読めば、北朝鮮ではどのような反日教育が行われているのかを知ることができる。

九月二十日付の『労働新聞』は「日本軍国主義者は百年来の敵」と題する論説を掲げた。曰く「今から百三十一年前、日本軍国主義者が朝鮮王朝政府を屈服させ、『江華島条約』を強圧的に締結する目的の元に起こした『雲揚』号事件は、日帝の武力による朝鮮占領の序幕だった(中略)実に、『雲揚』号事件から始まった朝鮮に対する侵略と植民地化、恐怖政治、狡猾な文化統治、人的・物的資源略奪、朝鮮人に対する野蛮な弾圧と虐殺、民族文化抹殺策動など、過去に日本が犯した罪は枚挙にいとまがない。……こんにち、日本軍国主義者は海外膨張野望に浮かれ、軍国主義者を鼓吹しながら朝鮮再侵略の刃を鋭く研いでいる。日本軍国主義者こそ朝鮮民族の不倶戴天の敵、百年来の敵である。朝鮮民族は日本の過去の罪を必ず決着するだろう」(宮塚利雄、宮塚寿美子『北朝鮮 驚愕の教科書』)
朝鮮人民軍出版社が二○○六年に発効した「学習提綱」(軍官・将校用)の「現状製の要求に合わせ事故の戦闘準備を隙なく完成させることについて」を見てみよう。
「日本の反動らの侵略活動も非常に危険な段階に入った。我が共和国を海外侵略の最初の攻撃対象と定めた奴らは、その実現のためなら手段と方法を選ばない。現在、奴らは対朝鮮打撃体制樹立策動に熱を上げている。これはわれわれを侵略するための作戦樹立と、それに伴う侵略武力の質的強化、偵察活動などを基本内容としている。(中略)われわれが対決しなければならない相手は、世界反動の元凶である米帝と日本の反動、そして南朝鮮の傀儡である」(同書)

以下は北朝鮮の教科書に出てくる具体的な記述である。

「偉大な領導者金正日元帥様は、御幼少の時お母様と一緒にある小学校をお訪ねになられました。偉大な元帥様は教室に入られ、地球儀をご覧になりました。ところで、地球儀には朝鮮と日本が同じく赤い色になっておりました。これはイルチェノム(日帝野郎)たちが朝鮮も、奴らの土地だという意味からそのようにしたのです。朝鮮がどのようにしてイルチェノムたちの土地だというのか。偉大な元帥様は憤りを抑えることができませんでした。そこで墨で日本の土地を真っ黒く塗り潰されました。
そうすると、この日、日本では本当に驚くべきことが起きました。突然、日本中が真っ暗になりました。そして稲光がし、雷が轟き、長いこと激しい夕立が降り注ぎました。この時から人々は偉大な領導者金正日元帥様は、空と土地も自由に動かされる才能をお持ちであると話しました」小学校一年生の教科書「真っ暗になった日本列島」より(同書)
敬愛する首領金日成大元帥様が、五歳になられた時のことでした。ある日、お父様は、家の大人たちからイルチェノム(日帝野郎)たちが、朝鮮人を手当たり次第捕まえて殺したという話をお聞きになりました。敬愛する大元帥様はその話を聞かれておじいさまにお尋ねになりました。〈おじいさん、将軍になるのはどうすればいいのですか〉おじいさまは、どうしてそう訊くのかとおっしゃいました。〈強い将軍になり、ウエノムたちをみんな殺してやろうと思うからさ〉敬愛する大元帥様は拳を強く握りしめてお答えになられました。
敬愛する金日成大元帥様は、このように幼い時に、ウエノムたちをやっつけられる強い決心を固めました。(同書)

この「ウエノム」というのは「短身で粗暴な人」という意味で、日本人の蔑称である。

キョンイル一家が日本に住んでいたときのことです。ある日、幼いキョンイルを負ぶって、埠頭で重い荷物を頭に乗せて運んでいたお母さんは空腹のあまり倒れてしまいました。
この時、監督野郎が駆け寄ってきて、お母さんを靴で思いっきり蹴とばしました。キョンイルもそのとき、そいつの靴で蹴飛ばされました。この日からキョンイルは足が不自由になりました。お母さんはキョンイルを負ぶって、日本の病院を訪ねて行きました。〈お金をいくら出せというだろうか〉お母さんがこのように心配するのに、医者の野郎は〈まず三十万円はなくちゃね……〉と治療費から払えと言いました。(同書)

以下は第十八富士山丸事件(一九八三年に日本の貨物船が北朝鮮にスパイ容疑で拘束された事件)について。

北朝鮮は日本にはたらきかける有効な手段を欠くことから、たとえば「第十八富士山丸」事件なども利用している。船を没収した上に船長と機関長を四年近くも帰国を許さず、あげくの果てに十五年の刑を宣告したのも、実利的に有利な時期を見て釈放するのが狙いなのだ。ちなみに、著者のたっての要請にもかかわらず、北朝鮮当局は新聞紙上で告知されたこの事件の裁判にソ連ジャーナリストの傍聴を結局許さなかった。(アレクサンドル・ジェービン『私が見た金王朝』)