地主

北朝鮮では資本主義を象徴する「地主」が悪の権化として扱われている。

母の実家はたいへん豊かだったようだ。それなのに、母は決して私たちの前でそんな話はしなかった。「地主」といえば、北では無条件に思想が良くない人と思われるため、私たちが負担を感じないようにわざと口にしなかったようだ。お腹が出ている人を「地主っ腹」と悪口を言うほど、地主を嫌うお国柄である。(金賢姫『いま、女として』)

地主階級出身者は身分も低くなる。

十代の若者がまだ高校に通っている時に、彼らは国防省が運営する地元の動員出張所に登録する。彼らは健康診断を受け、不審な親戚のいるものが精鋭部隊に配属されることがないように秘密警察が家族関係を調査する。地主の甥の孫には、平壌を守ったり、非武装地帯をパトロールすることは任せられない。一方、そうした者たちは、地方の建設現場で土木機械の代わりとして使える。(アンドレイ・ランコフ『民衆の北朝鮮』)

朝鮮の現代史を描いた『太白山脈』では日本植民地時代に日本人と地主が手を組んで金を儲けていたことが記述されている。

筏橋(ポルギョ)は一言でいえば、日帝時代に日本人によって開発された町だった。それ以前の筏橋は、楽安平野の端を流れる川沿いの寒村に過ぎなかった。それを日本人が、全羅南道の内陸部一帯の米の収奪を目的に集中的に開発したのである。筏橋の入江から船を出せば、順天湾を横切り麗水まで半日もあれば十分行けるし、木浦から釜山に至る長い航路を半分に短縮できた。木浦が全羅南道西部の米の積み出しに最適な港だとすれば、筏橋は宝城(ポソン)郡と和順(ファスン)郡を含む全羅南道南部の河口の街だった。
さらに筏橋は、高興半島と順天、宝城の三方向に分かれる分岐点にあたる、交通の要所だった。
鉄橋の下の船着き場は、満ち潮に乗って入ってくる日本のポンポン船で沸き返り、住みついた日本人も、他の同じような町に比べてはるかに多かった。
街には日本的な雰囲気が色濃く漂い、その規模は不釣り合いな警察署が駐在所の代わりに建てられた。町は自ずと商売で賑わい、活発な金の動きに惹かれてやってくる人々で膨れ上がった。
そのうち、あらゆる交通の要所がそうであるように、筏橋にも腕っぷし自慢のチンピラが現れ始めた。
そこで、いつの頃からか「筏橋に行ったら金持ちぶるな、豪傑ぶるな」という言葉が、「順天に行ったら色男ぶるな、麗水に行ったら粋人ぶるな」という言葉に負けず劣らず使われ出した。
だが、金を求めてやってくる人々がいくら多かろうと、彼らが懐にするのはせいぜいがはした金で、経済に主流は数名の日本人と指折りの地主が握っていた。
地主たちは土地が生み出す富だけでは飽き足らず、日本人と手を組み、安全な事業に投資する事業化でもあった。
家門と体面を重んじながらも計算高く、利を追うことに熱心なあまり、両班としての風格や品性をかなぐり捨てた人々で、近代化の意味をはき違えていた。その上、商売とは関係のない百姓たちまでが、よその百姓に比べて目端が利き、口も達者だった。金と言う魔力のせいなのか、町の住人の多くは日本人とそれなりにうまく付き合いながら暮らしていた。(趙延来『太白山脈』)

北朝鮮の教科書では以下のように悪者として扱われている。

我が国が光復(日本の植民地支配から解放された日、一九四五年八月十五日)する前のことでした。新穀もまだ出ないのに、タルレの家では食べる米がみななくなってしまいました。
タルレのお父さんは考えあぐねて、チジュノム(地主野郎)の家を訪ねて行きました。お父さんは豆の殻が半分以上も混ざった大豆一斗を、やっとのことで借りてきました。
タルレの家はその大豆で粥を作って食べ、春先から畑に出て働きました。努力した甲斐があって、秋になると穀物がよく実りました。〈粥でも飢えずに食べられそうだ〉お父さんは収穫した穀物を見て、嬉しそうに話しました。ところが地主野郎が現れて、収穫した穀物をみな奪って行ってしまいました。さらには貸した大豆一斗を、二斗として返せと付け加えました。
タルレの家には払う大豆も米もありませんでした。狐のような地主野郎は〈それならば、大豆二斗を来年は四斗にして返せ〉と、反対に大声を出しました。タルレの家は食べもしない大豆四斗を借金しました。翌年はその四斗が八斗に膨らみました。三年たったある日、地主野郎がタルレの家を訪ねて来ました。〈どうも大豆八斗を返せそうもないから、そのかわり娘を我が家に寄こすのはどうだ〉地主野郎は眼鏡越しに、タルレをじろっと見つめて、父親に怒鳴りました。
〈え、タルレを差し出せと!〉
〈みんなおまえさんのことを考えてのことだ。我が家に来ればタルレもおなかが空かないだろうし、お前さんの家だって食べ口が一つ減るじゃないか?〉
〈俺はそんなことはできない〉
〈なにい、なんだと。差し出せないだと?それなら俺が連れて行く〉
地主野郎は部屋の中に飛び込んで、タルレを庭に引っ張って行きました。
〈お母さん!〉
タルレは引っ張られないよう足を踏ん張りました。
〈タルレや!〉
お母さんも声を張り上げて駆け寄ってきました。しかし、お母さんは地主野郎の足にふさがれて、倒れれてしまいまいた。お父さんの目からは怒りの炎が燃え上がりました。
〈この獣野郎、腐った大豆一斗をくれて、人をさらっていく!〉お父さんは大きなげんこつで地主野郎を殴って、その場に倒してしまいました。その夜、タルレの家にイルチェスンサノム(日帝巡査野郎)が駆け込んできました。奴らはお父さんをぐるぐる巻いて、引っ張っていき、タルレの家まで奪ってしまいました。家から追い出されたタルレとお母さんはあちこち彷徨いながら、やっとのことで生きていきました。敬愛する金日成大元帥様が国を取り戻され、土地を与えてくれた後になって、タルレの家も豊かに暮らせるようになりました。
(宮塚利雄、宮塚寿美子『北朝鮮 驚愕の教科書』)