階層の移動

脱北者のパク・ヨンミが述べているように、北朝鮮では成分、つまり”生まれ”で全てが決まる。

ハナ院で何度も繰り返し聞いたある言葉は強く印象に残っていた。『民主的な社会では、努力すれば報われる』最初は信じなかった。北朝鮮ではそんなことはない。
努力が報われるのは、出身成分が良くて、コネに恵まれている人だけだ。(パク・ヨンミ『生きるための選択』)

とはいえ、身分を上昇させることも不可能ではないとジャーナリストのアンドレイ・ランコフは実例をあげてこう述べている。

自分の身分を向上させることは可能である。例えば不幸にもプロテスタントの牧師の孫であった若者が模範的な兵役により、名誉を回復させることがある。(アンドレイ・ランコフ『民衆の北朝鮮』)

一方で、階層を上昇させることはほぼ不可能だと脱北者のイ・ヒョンソは言う。

動揺階層の人たちは、下級官僚や教師になることはできる。軍隊に入った場合、軍の中枢にまで上り詰めることはできない。この制度で大変なのは、下がるのは簡単なのに、上に行くのはほぼ不可能ということだ。上の回想の人と結婚しても無理である。人口の十パーセントから十五パーセントにすぎない支配層の人々は、なにか過ちを犯して階層を下げられないよう常に神経を尖らせている。(イ・ヒョンソ『七つの名前を持つ少女』)

以下は上層階級にいた者が、あることをきっかけに下層階級に落ちてしまった例である。

両親が「白頭山チュルギ(筋)」であるか、「洛東江(ナクトンガン)チュルギ」であれば、学力が少々落ちても,いい大学に進める。
「白頭山筋」というのは、祖父か父親が、過去に金日成率いる「抗日部隊」に従軍していた人たちの子孫を指しており、「洛東江筋」というのは、朝鮮戦争の時、南の洛東江へ進撃して戦死した人民軍将校の末裔である。
このような人たちが、出身成分の上層階級を占めている。
それとは逆に、越南者(親類縁者が韓国へ亡命した者)家族、韓国軍捕虜の家族、越北者(韓国から北朝鮮へ亡命した者)家族、日本の植民地時代の地主、資本家、商工人、そして、金父子の政策や路線を批判または非難して「独裁対象区域(収容所)」に入っている人の家族、北送僑胞(日本からの帰国同胞)家族などは、成分不良の下層階級である。
だから、このような両親を持った生徒は、はなから大学進学は諦める。私の大学在学中に、金明哲という学生がいた。
戦争孤児で、父親は洛東江の激戦で戦死し、母親は爆撃で死んだ、それこそ、洛東江筋の成分良好な、将来出世が保証されたような成分の学生だった。
ところが、住民登録、再登録などの過程で人民軍としてでなく、韓国軍に協力した「治安隊」の一員だったことが明らかになった。その結果、彼は退学となり、再配置先は南浦近辺の鉱山に指定され、炭鉱夫となってしまった。
(高英煥『ソウル暮らし平壌暮らし』)