成分とは何か

北朝鮮は階級社会であり、各世帯は「成分(ソンブン)」と呼ばれる格付けがなされている。成分の概要については北朝鮮研究者の宮塚利雄の説明がわかりやすい。

金日成政権は誕生の時から順調だったわけではない。金日成の政策に批判的な勢力を粛清する繰り返しだった。金日成政権は、反体制派を根絶するために一九五八年5月三十日に緊急招集した朝鮮労働党常務委員会で「反党反革命分子との闘争を全党的、全人民的運動として展開することについて」決議する。
この決議に基づき、一九五八年から一九六〇年まで「中央党集中事業」が展開された。この「事業」は、韓国との戦争を想定し、人民を味方で信頼できる「核心階層」、敵味方の区別がつかない「動揺階層」、敵になる可能性が大きい「敵対階層」の三階層に分類するものだった。調査は非常に厳しく、約一万五千世帯、七万人が不純分子の烙印を捺されて奥地や僻地に強制移住させられ、六千人以上が「反革命」「反党」の烙印の元に、人民裁判にかけられて処刑された。
 ・トマト階層(核心階層)=金日成体制を支持する忠誠階層で、平壌市民のほとんどはこの階層に属していると言われる。彼らは文化的・経済的な恩恵を受けていて、
食糧危機が伝えられる北朝鮮でも一日に六百五十~七百グラムの米と雑穀が配給される。別名「トマト階層」(皮も中身も赤い)。国民の三十パーセント。
 ・ブドウ階層(敵対階層)=核心階層とほぼ同数の約三十パーセントを占める敵対階層は、「ブドウ階層」(皮も中身も赤くない)と呼ばれ、いったん有事(韓国との戦争や国内での
反革命暴動など)が生じた際には真っ先に現政権に背を向けると言われている。現体制に最も不満を持つとされる階層。彼らは地方の炭鉱や鉱山地域に居住させられている。
 ・リンゴ階層(動揺階層)=以上のどちらにも属さない動揺階層は「リンゴ階層」(皮は赤いが中身は白く、反動的な要素をもってるが、思想改善の必要がある)と呼ばれていて、
全国民の約四十パーセントを占めている。
最も成分が良いのは、金日成とともに抗日パルチザンとして戦った部下で、次は共産主義闘争に携わってきた人、第三が労働者、第四が貧農の小作人だ。逆に、最も良くない成分は地主(五十一番目)で、次が資本家(五十)、富農(四十九)、中農(四十八)、越南者(韓国に逃亡した者)の家族(四十七)、処刑者の家族(四十六)、キリスト教者(四十五)。その他、植民地時代に区長以上だった親日家(三十八)、海外僑胞の家族(二十八)、酌婦・妓生(二十五)、在日僑胞(二十四)も良くない。(『北朝鮮ツアー報告』)

以下に脱北者たちの説明を引用する。

住民の社会的地位や身分を細かく規定したもので「出身成分」と「社会成分」に分けられる。出身成分は家系を三代前までさかのぼった出身階層や職業によって決められる。
(チャン・キホン『北朝鮮 普通の人々』)
北の庶民たちは実際には「成分」という言葉は使わず、「土台(ドデ)」と言う。(金起成『ボクが捨てた「北朝鮮」生活入門』)
出身成分は三つの主な階層の中で、さらに五十個以上の分類に分かれている。成人後は、成分が当局によってたえず監視され、修正される。隣組による通報や警察の調査により、自分や家族のしたことはすべて当局に知られずにはいられない。自分に関するあらゆることが記録され、地元の管理組織や国の機関に保管されている。それをもとに、どこに住めるか、どこの学校に行けるか、どこで働けるかが決められる。成分のいい者は朝鮮労働党に入れて、政治的な権力者ともつながりが持てる。いい大学に行き、いい仕事につける。
成分の悪い者は、集団農場で一生田んぼを耕して終わる。そして飢饉になれば飢え死にする。(パク・ヨンミ『生きるための選択』)
父の出自は悪くなかった。咸鏡南道僻地の貧農の長男に生まれたが、有名な独立闘士で海軍司令官を歴任した趙正徹(チョジョンチョル)と親戚だった。
そのおかげで、平壌学院(現在の金日成高級政治大学)に入学し、ロシア語を専攻することができたのだ。(超英鎬『にんじんどろぼう』)
「土台も白頭山(金日成のパルチザン闘争)の流れで、とても立派な族譜(チョクポ)だ。おそらくソンイルのように完璧な土台を持ったものは共和国に何人もいないだろう」
族譜は朝鮮の伝統的な系図のことで、一族の主だったものの大昔からの功績も記されている。だがこの場合は、祖父のパルチザン闘争のことを言っているのだろう。
(チュ・ソンイル『北朝鮮人民軍 生き地獄の兵営』)

以下はジャーナリストのバーバラ・デミックの引用。

北朝鮮では男女のことと出身階級のことは他人に語らぬのが筋だった。とりわけ自分の成分について愚痴ることは体制批判に等しかった。(バーバラ・デミック『密閉国家に生きる』)