大学

北朝鮮は誰もが自由に大学に入学できるわけではない。大学を受験するには、まず推薦を受けなければならない。

北朝鮮で大学に入学するためには、まず推薦を受けなければならない。
それぞれの道・市・郡の行政委員会の大学募集課が、出身成分がよくコネがある子弟を募集し、「大学推薦書」という推薦文書を発行するのである。推薦書には、本人の親戚関係、経歴、身体検査など、様々な文書が添付される。しかし、本人に手渡される推薦文は形式に過ぎない。
行政委員会の大学募集課は社会安全部の住民登録課に依頼して、彼らの出身成分を分析する。そして、出身成分が一番いい党の活動家、保衛員、安全員、幹部層の子弟たちから、危険分子として考慮対象となる外国縁故者の子弟に至るまで選別する。
そうして、中央の大学や地方の大学を個別的に指定し、当該の大学に行って試験を受けるよう指導する。
軍隊の中では、師団の幹部課が取り扱い、上記と同じような手続きを経て、入学試験に応募させる。(安哲兄弟『秘密カメラが覗いた北朝鮮』)

出身成分とは家柄、身分のことである。
大学の推薦を受けられるかどうかは、成績よりも出身成分に左右される。

金日成総合大学に推薦を受けるには、まず成分が良くなければならない。つまり抗日パルチザン出身の子女や対南革命家の子女、または戦時被殺者(戦没者)の子女なら申し分がない。
そして党や政務院機関の幹部など、特殊層の子女か、少なくとも基本階級(労働者、農民)出身でなければならない。(金賢姫『いま、女として』)
大学は父親が党幹部であればいくら成績が悪くても入れるが、一般労働者の家柄ではよほど抜きんでた秀才でなければ入ることは難しかった。
人民学校のときから勉強もよくでき、ずっと優等生だった弟は、高等中学校時代に社労青委員長(生徒会長)に選ばれて活動し、金日成の表彰を受けたりした。
「姉さん、僕の学校に総合大学への推薦状が一枚来たそうです。それはたぶん僕に回って来るでしょう。何日か前に先生が、推薦状が一枚送られて来たらソンピルを推すといってくれたんです」
しかし結局その推薦状は南浦市党責任秘書(市長)の息子に回ってしまった。弟と同じクラスだった息子は成績が中くらいだった。(申英姫『私は金正日の「踊り子」だった』)

また、大学に入学しても何を専攻するかを自由に選ぶことはできない。

母は勉強に精を出し、偉大なる指導者とその後継者に選ばれた息子の金正日をたたえる詩の暗記に集中した。
もし選べたなら、母は医者になりたかったが、何を学びたいか希望を言えるのは、家柄のいい学生だけだった。
大学側によって母の専攻は無機化学に決められ、母はそれを学んだ。(パク・ヨンミ『生きるための選択』)

北朝鮮は賄賂社会である。北朝鮮の住民はあらゆる局面で賄賂を要求されるが、大学の単位を取得するにも賄賂が必要なのだという。

社会主義なので入学金や授業料などを出すことはないが、卒業するまでは常に金が必要なのだ。教授や大学の事務官に渡す賄賂の資金がなければ、卒業どころか単位の取得もおぼつかない。(チュ・ソンイル『北朝鮮人民軍 生き地獄の兵営』)
以前なら成分の悪い者は、たとえ賄賂を積んでも大学に進学できなかったものだが、九○年代になると師範大学ぐらいなら、賄賂で入れるようになっていたのだ。(キム・ウンヒョン一家『生きたい!――「飢餓と絶望」からの脱出』)

次に大学生活について。朝、登校する際に厳しい検査を受けるのは小中高生だけではない。大学生もまた身だしなみについて検査を受ける。

大学生は、朝は幼稚園の園児たちのように列をなして歌を歌いながら登校する。大学の正門では、腕章を付けた学生代表が登校してくる隊列を検査する。頭はきちんと刈っているか、金日成のバッジをつけているか、などである。ここで指摘を受けると構内に入れず、家に帰らなければならない。(チャン・キホン『北朝鮮 普通の人々』)

以下は大学の寄宿舎について。

大学構内にある寄宿舎は、床が大部分がアシで作ったマットレスになっている。なかに藁が入っているのでいつも悪臭がして、ゴキブリとノミはいくら捕まえてもきりがない。
しょっちゅう殺虫剤を巻いていたが、全然効果は見られなかった。女子大生の場合は、男子より洗いものが多い。石鹸が十分には手に入らないので、他人の石鹸を使ってバレると、
大衆の前で批判を受けることになる。大学の寄宿舎で集団生活をしていると、家から送ってくる、いくらにもならない金や、食堂でご飯が食べられる配給券のようなものを互いに盗んだりするので、取られないように寝ないで起きていることもしょっちゅうである。このような状況は平壌を除くすべての地方で例外がない。(チャン・キホン『北朝鮮 普通の人々』)

金日成の著書を読まなければならないのは北朝鮮の全住民の義務であり、もちろん大学生も例外でない。

大学在学中は、全員が『抗日パルチザン参加者たちの回想録』六十巻、『人民たちの中で』三十七巻を通読し記録にとどめておかなければならない。それから、金日成が抗日武装闘争を始めたという一九二六年から現在に至るまで、彼が会議のたびごとに打ち出した方針を記録した。『著作選集』から労作を抜粋してノートしておかねばならない。(金賢姫、前掲書)


高等中学校に入ると軍事訓練が始まるが、大学でも軍事訓練が行われる。

教導隊訓練とは、大学で誰でも義務的に受けなければならない軍事訓練のことである。
北朝鮮では、中学で必ず「赤い青年近衛隊」訓練を受けなければならず、大学では教導隊訓練を受けて卒業できるようになっていた。赤い青年近衛隊は軍事訓練の基本だけを学ばせ、大学では本格的な軍事訓練をさせる。金大に入学し、一か月も経たぬうちに教導隊訓練に出かけるようになった。六か月の教導隊訓練を終えると、大学卒業後、軍隊に入隊するときには少尉として任官できる。(同書)