肖像画の扱いは命に関わる

屋内であればどこにでも、金日成と金正日の肖像画がある。

北朝鮮は肖像画の国である。つまり、金日成と金正日の肖像画である。肖像画はいたるところにある。どの居間にも、どのオフィスにも、どの鉄道(ひいては地下鉄も)の車両にもある。だが、どういう理由からか、バスとトロリーバスにはない。肖像画は、すべての主要な公共施設、鉄道の駅、それに学校の入り口に飾られてある。(アンドレイ・ランコフ『民衆の北朝鮮』鳥居英晴訳)

肖像画を描いているのは平壌美大出身のエリートたちだ。

これらの絵は「一号創作家」と呼ばれる、平壌美術大学を卒業した、一説には二万人いるといわれるエリート集団が描いている。中でもトップクラスの画家たちが「万寿台創作社」や「中央美術創作社」等に就職して件の絵を書き続けている。(国分隼人『北朝鮮の鉄道事情』)

ちなみに「一号」は金父子にまつわることを意味する。例えば一号行事は金父子が参加する行事のことだ。

金日成バッジと同じく、指をさすのはご法度である。

幼い頃から私は、母が肖像画を手入れするのを手伝った。政府から支給される特別な布を使うのだ。ほかのことには一切使ってはならない布である。歩き始めたくらいのころにはすでに、肖像画が他の家財道具とは違うことを私は知っていた。一度、肖像画を指さしたことがあったが、母は「二度としてはいけない」と言って大声で叱った。肖像画を指さすことはとても無作法なのだと私は学んだ。
どうしても指し示す必要があるときは手を開き、手のひらを上に向けてゆっくりと指し示す。「こうするの」と母は言って、私にして見せてくれた。(イ・ヒョンソ、デイヴィッド・ジョン『七つの名前を持つ少女』夏目大訳)

肖像画の設置場所や手入れに関しては厳しい決まりがあり、それを破ると罰せられる。

どちらも部屋の中で最も高い位置になくはてならず、完全に一列に並んでいなくてはならない。同じ壁には、他に絵も写真も何もかけることは許されない。また、公共の建物や、党幹部の家では、三枚目の肖像画の掲示も義務付けられる。金正淑の肖像だ。[…]だいたい月に一度、白い手袋をはめた役人が各家庭に来て、肖像画を点検して回る。もし掃除を怠っているとみなされれば、処罰されることになっていた。ガラスにわずかな埃がついていないか確かめるために、懐中電灯の光をあてて調べているのを見たこともある。

肖像画を掃除する道具には名前がつけられている。掃除をする際には細心の注意を払わなければならない。

金父子の肖像画の額縁の下には、「真心函」というものがおいてある。この真心函とは、金父子の写真だけを専用にふく布を入れる入れ物のことである。壁紙を張り替えたり修理する
ときも、金父子の写真を床に置いたりしてはならない。党の責任者の了承を得て写真を別なところに保管して置いてから、改めて壁にかけなければならない。(チャン・キホン『北朝鮮 普通の人々』宮塚利雄訳)

肖像画の扱い方次第では死に繋がることもある。

肖像画は壁にかけられる。その壁はほかの肖像画や写真をかけるために使ってはならない。肖像画が適切に手入れされているかを調べるために、抜き打ちの検査が行われる。
掃除は毎日行わなくてはならない。オフィスや学校では、地元の幹部が適切な掃除が行われるよう責任を持たされる。仕事の質は承久の幹部によって抜き打ちで検査される。
肖像画に埃がたまっていたら重大な罪である。肖像画を誤って傷つけても重大な罪である。北に亡命した韓国の学者キム・ヨンジュンが金日成の肖像画をたまたま傷つけてしまったという理由で自殺した。(ランコフ、前掲書)