生徒は徳性資料を暗誦しなければ家に帰れない

学校に通う生徒は金日成の「徳性資料」を暗誦できるようにならなければいけない。
暗誦できないと家に帰れないのだという。
大韓航空機爆破事件の実行犯である金賢姫は、次のように自身の少女時代を回想している。

個人的にも金日成の徳性資料を暗誦し、忠誠の贈り物を用意し、四月十五日に捧げる生け花も求めなければならない。金日成の徳性資料の暗誦は、どんなに成績の悪い生徒であろうと、 徹夜してでも暗唱しなければならない。放課後、学校の辺りにある木の下にカバンを集めておき、図録板になっている金日成の徳性資料の実録と金日成革命歴史を暗誦し、少年班別に先生や級長の検閲を受けた後で家に帰ることができる。 一少年班は六名で成っているが、一名でも覚えられないものがあれば、全員夜九時過ぎまで帰れない。だから北朝鮮の生徒と人民たちは誰でも、金日成を褒めたたえる文句と内容を、いつどんな場でもスラスラ言えるようになっている。(金賢姫『いま、女として』池田菊敏訳)

少年班とは生徒たちの行動単位である。
北朝鮮では子供から大人まで、誰もがなんらかの組織に属し、班単位で行動しなければならない。

では「徳性資料」とはどんなものなのか。

その文句は修飾語が少しずつ違うが、要旨はだいたい同じである。
金日成の誕生日には「十五星霜(十五年間)の艱苦な抗日武装闘争を通じ、日帝に奪われたわが国をとりもどしてくださり、一生涯をひたすら人民のためにささげた首領様がいらっしゃり、今日の燦然とした主体朝鮮があり、我ら人民の幸福があります。首領様の安寧はまさしく我ら朝鮮人民の変わらぬ念願であり、平素からの望みであります。
我ら民族の太陽であられ、我らの慈しみ深き父なる金日成元帥様の永遠なる長寿を謹んでお祈りいたします」という。お正月にはそれに付け加えて「世に喜びがあるとするなら、首領様を身の近くに奉り、お正月を迎えることであります」という言葉が入る。
祖国統一を決意する集まりでは、「祖国統一はかたときも忘れることのできない我ら民族最大の事業であります。首領様ご命令のその時が来るなら、我々は主体朝鮮、英雄朝鮮の名誉にかけて、千万回倒れても再び起き上がり、祖国統一のため、天下分け目の戦いで米帝のやつらどもをとことんまで打ち破り、祖国統一の広場へ首領様を高く奉ります」と固く誓う。(同書)

生徒たちは暗誦するだけでなく、感情をこめて涙を流すことまで強制されたようだ。

先生たちは生徒たちにこんな内容を教育し、表情、身振りまで指導する。感情を入れ涙を流さなければ夜遅くまで帰さず、何十回でも繰り返させるので、ある男の子は辛いねぎを手のひらにその手を顔の近くに充てて涙を絞り出したりした。(同書)
Tagged on: , ,